九州地方に大きな被害をもたらした熊本地震。被災した建物も多く、熊本城や阿蘇神社など多くの貴重な文化財も例外ではありませんでした。熊本県の創造的復興を支援する『くまもと未来応援ファンド』は2022年、熊本県の文化財の復旧・復興を目的とした「熊本城・阿蘇神社等被災文化財復興支援募金」へ約213万円を寄附しました。寄附をご活用いただいている熊本県庁様、またファンドの販売会社である肥後銀行様にお話を伺いました。
教育庁教育総務局文化課 参事
能登原 様
文化財とは、地域のアイデンティティであり、
熊本らしさを表すもの。
切れ目ない支援が復旧・復興の力になる。
文化財とは、
地域のアイデンティティであり、
熊本らしさを表すもの。
切れ目ない支援が
復旧・復興の力になる。
「みんな熊本城が早く復旧する姿を見たいけん、大変だろうけど頑張ってね」
「待っとるけんね」
2016年の熊本地震直後から文化財の復旧・復興に携わる熊本県教育庁教育総務局文化課参事の能登原様は、熊本城を担当していた時、訪れた県民の方にこう声をかけられたことで文化財の価値を再認識したと言います。
「お寄せいただいた寄附金は指定文化財だけでなく、国・県・市町村による指定を受けていない未指定文化財への復旧・復興にも、県独自の支援として活用させていただいています。
従来の制度では未指定文化財は公的な支援が受けられなかったため『支援制度がなければ、修理費用が足りずやむなく解体するところだった。先祖代々大切に守ってきた建物を保存することができてとてもありがたい』という声や、『仏像など修理ができず朽ちていくだけだったが、支援のおかげで地域の大切な宝物を守ることができて本当によかった』と喜ばれています」
日本三名城の一つといわれる熊本城は、地震によって天守閣の瓦が落下し、石垣や櫓が崩れるなどの被害がありました。多くの方の尽力により徐々に、そして着実に元の姿を取り戻しつつあります。
復興のシンボルである熊本城。初代藩主の加藤清正によって江戸時代に造られた際には7、8年で完成したといわれています。しかし熊本地震による被災から完全に復旧するには、なんと20年。建設時をはるかに上回る歳月を要すると見積もられています。
能登原様によると、文化財の復旧作業で難しい点は「その歴史的価値をいかに損なわずに復旧を進めるか」ということ。
たとえば熊本城の石垣では、崩壊した石一点一点を詳細に記録して、被災前の写真などと照らし合わせながら、何万個もある石を元あった場所に戻すという気の遠くなるような作業が進められています。
「新しく作り直した方が時間も手間もかからないのですが、あえてこのような作業をしている理由は、それぞれの文化財が持つ歴史的価値を最大限残すため。そして大切な文化財を、次世代に確実につないでいくためです」
修復工事中の熊本城天守閣。立派な天守閣は、熊本らしいまち並みを形成する大切なものであり、県民の誇りでもある。
文化財の復旧・復興の取組みは、熊本だけでなく全国の文化財を守る大切な役割も担っています。
熊本地震の復旧・復興には、全国から応援に集まった市役所・県庁職員や、伝統技法に優れた職人の協力によって作業が進められてきました。
一方で、地震は日本各地で起こりうる災害。だからこそ、熊本に集った人々がそこで得た知識や経験を地元に持ち帰ることによって、それぞれの地での有事の備えとなるのです。
また一連の復旧・復興事業は、少なくなりつつある石工職人などの後継者育成にもつながります。
2019年に大天守の外観復旧が完了し、天守閣周辺の公開がスタート。2020年からは熊本城の復旧過程を見学することができる特別見学通路を利用した特別公開が始まり、2021年には全体の復旧が完了した天守閣の内部公開を再開。
熊本城もその長い歴史の中で、地震の度に崩れては何度も建て直されてきました。しかし復旧・復興は、元通りにすることだけがゴールではないと能登原様は言います。
「私の個人的な考えとしては、地震という悲しい経験を乗り越えて、みんなが『より良い熊本になったよね』と思えた時がゴールなのかなと思います。復旧・復興には長い期間に渡って多額の費用が必要となりますが、震災から時間が経つにつれどうしても関心が薄れてくるため、支援も少なくなっていく傾向があります。応援ファンドをはじめ、継続して寄附をいただくことは、熊本にとって大きな後押しになります」
個人コンサルティング部
新城 様
進化するまちを
自分たちも前へ進みながら支えていく。
進化するまちを
自分たちも前へ進みながら
支えていく。
熊本地震の2年後、2018年1月に設定された『くまもと未来応援ファンド』。設定前の当初募集期間には、たくさんのお客さまから応援が集まりました。
販売開始とともに「熊本のためになにかしたい」というお声を多くいただいたと肥後銀行個人コンサルティング部の新城様は振り返ります。
「当時は県庁支店におりまして、復興支援活動が身近で行われていたことも大きかったと思います。資産運用という観点だけではなく、熊本への寄附や復興支援につながる商品性に共感していただきました」
また投資対象や資産配分が分かりやすいことから、この応援ファンドをきっかけに投資信託を始められた方もいらっしゃるそう。
「投資先には、熊本に本社・工場等がある企業の株式も含んでいるので親しみを持っていただきやすく、投資を始めてみたいという方から積極的に運用したい方まで、幅広い方にご購入いただいている商品だと思います。バランスが良いので、あまり大きなリスクは取れない法人のお客さまも多く、資産運用と社会貢献の両面からご活用いただいています」
ご自身も被災されたという新城様。まちの復旧・復興は進んでいるものの、県民にとって「自分たちが被災した」という記憶はまだ強いと言います。
「冷蔵庫が倒れるほどの経験したことのない揺れでした。翌日は子どもを預けて出勤し、帰ってきてから朝方にかけて家を片付けました。でもその日の夜にもっと大きな地震がありましたので、その時は本当に心が折れましたね」
経済インフラである金融機関には、どんなことがあろうとできる限りサービスを止めないという使命があり、しばらくは避難所から出勤する日々が続きました。
「営業活動は一旦止めて、粗品のタオルや日用品を配りつつ、地域の方のお手伝いに回っていました。また住宅ローンを組んでいるお客さま一人ひとりを訪ねて、状況をお伺いしていました」
この時の経験もあり、肥後銀行では2017年、移動店舗車を九州地区の金融機関で初めて導入。ATMや窓口を積んだ大型トラックが仮設住宅を回り、さまざまな手続きが行えるようになりました。
「地震をきっかけにさまざまな課題に取り組み、必要とされていることを実現できたのは、私たちとしても誇りに感じています」
肥後銀行移動店舗車『HamoniCar(ハモニカー)』は現在も熊本県各地で活躍中。環境に優しいバイオディーゼル燃料を利用しているほか、自動昇降リフトや車椅子、発電機、AEDを装備しています。
最後に、県民にとっての熊本城について伺いました。
「熊本城は、熊本市の真ん中にあります。熊本城がまちを見守っているような感じですね。子どもの頃から、周りの公園でお花見をしたりピクニックをしたり……と日常的に親しんできた場所です。それが今回の地震で被災して、ブルーシートがかけられている姿にすごく残念な気持ちになっていました。今は天守閣の修理も終わり、新しい顔が見えているのが本当に嬉しいです。
県民としては、まず文化財の復興を優先することに違和感を持っていないと思います。まずは大切な文化財を直してほしい、まちのシンボルが元気だと自分たちも持ち直せる、というのは『県民あるある』かなと思います」
『くまもと未来応援ファンド』では2020年2月に販売手数料を無料化、また2022年には、台湾に本社を持つ半導体受託生産世界最大手のTSMCの工場が熊本に建設されることから、海外企業への投資を視野に入れた約款変更を行うなど、応援の輪を広げるべくさまざまな施策を行っています。
人々の誇りを取り戻し、さらに豊かなまちを目指す。
商品を持つことで継続的な支援ができる応援ファンドは、復旧・復興のゴールをともに見届けられる存在なのかもしれません。
<2022年5月取材>
くまもと未来応援ファンド
愛称 復興投信
国内外の株式(熊本県関連企業)や日系外債、J-REITを投資対象としています。
販売会社が受け取る信託報酬の一部を、熊本県の復旧・復興および“熊本県の未来づくり”のために寄附しています。
熊本県(熊本城・阿蘇神社等被災文化財復興支援募金)へ2019年に1回目の寄附を行いました。寄附実績は総額950万円以上にのぼります。
熊本城・阿蘇神社等
被災文化財復興支援募金
2016年の熊本地震により被害を受けた、熊本県の多くの文化財の復元・修復などを支援する募金です。
<2022年6月末現在>